人の趣味って判らないものだ。
俺は、中学・高校はバスケをやっていて、一応と言うのか、インハイに二回出場を果たしたこともあって、大学からは“スポーツ特待入学”の誘いが結構あったが、心機一転で格闘技をやるつもりだったので、全部断って普通に受験・入学をした。
そして、晴れてボクシング部員になった。
しかし、今一つグッと来るものがなく、夏前に止めて“総合格闘技”の道場に入門したのだった。
卒業までの四年間で、俺は結構注目される選手になっていた。
しかし好事魔多しと言うけれど、選手生命を断たれるような大けがをして、俺は現役を引退、その後、自慢ではないのだが学業も優秀であった俺は、大学の研究室(生産工学)に残ることになった。
そこにいた、一年先輩に当たる女子の院生が、何とSB(シュートボクシング)の選手だと言うではないか。
どこからどう見ても“モデル”にしか見えないような、スラリとしたプロポーションと、すっきりとしたきれいに整った顔立ちは、誰がどう見ても“綺麗な人”にしか見えない。
ある日、研究室に居残りをして、教授からの宿題にお互い、頭を悩ませていると「ねえ、終わったら飲みに行かない?この頃さ、体を動かす機会が少なくなって、なんだかスッキリとしないのよね」と、喜美恵さん(SBの選手)が言う。
「え!俺、もしかしたら朝日を見ることになりかねないですよ」と言うと「私はもう少しで終わるは、そしたら手伝ってあげるからさ、だからさ、いこ」そう来られては、おまけに美しい同好の士に誘われて断わる理由は皆無。
ちょっとだけ教授に申し訳ない気持ちはあったが、「はい、お願いします」と言ってしまった。
三時間後、俺たちは大学の近くの居酒屋にいた。
俺も喜美恵さんも“鯨飲馬食”の類で、お互いに良く飲み良く食った。
そして、話題は学問の事には一切触れられることはなく、総合とSBの話しに終始した。
喜美恵さん達SBは、基本的にスタンディングポジションで、打撃(パンチとキック)を主体に、関節技を駆使して戦うスタイル、俺たち総合はスタンディングポジションもグランドポジションもありで、言ってみれば命にかかわること以外は何でもあり、という競技だ。
俺の話しを面白そうに聞いていた喜美恵さんは「ねえ、あんたさ、現役は引退したかもしれないけどさ、まだトレーニング程度はやってるでしょ。
今度さ、総合の道場に連れってよ。
一回、生で見てい見たいじゃん」と、酔眼朦朧とした目つきで言う。
「いいっすよ。
そんじゃ、今度の日曜日なんてどうです」と、俺が言うと「よっしゃ〜、決まり。
連れてってもらうんだから、私が車で迎えに行ってあげるよ」と言うので、俺はちょっとこまって「どうせ帰りに道場の人達と飲むことになると思いますから、基本的なスタンスに戻って、徒歩と電車にしましょう」と提案、あっさりとOK。
当日の日曜日、待ち合わせの駅の改札口には、驚くべき姿の喜美恵さんが立っていた。
SBの装具が全部入っていると思しきデカイバッグを肩に担ぎ、まるっきりのスッピン(それでも行き交う男性は、喜美恵さんを注視)で、よれよれのTシャツとダメージジーンズ姿だ。
まるで、これから試合にでも行くような格好だ。
俺も、今日はトレーニングをするつもりだったので、デカバッグに装具一式を詰めて、同じような格好だから笑える。
道場では、とうとう喜美恵さんとスパーリングをする羽目になって、困ったものだったが、実際に対戦してみるとこれが強い。
もと、注目の若手だった俺だが、結構手を焼く強さだ。
まあ、途中で手を抜いて、勝負?の行方を紛らわしい状態に持っていったことは事実だが。
終わってから道場のシャワーで汗を流し、みんなで飲みに行った。
その日、喜美恵さんは完全に女になって、酔い潰れ、俺が送って行った。
そして、それから二カ月、俺たちは今は彼と彼女になっている。
格闘技バンザ〜イ、総合バンザ〜イ、SBバンザ〜イ。

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